コンセプト設計とは|重要視される理由と設計の6つのコツを解説します
ビジネスで新しいことを始める際に、必ずと言ってよいほど必要になるのが、企画のコンセプト設計。
コンセプトを決めずに企画を進めてしまうと、良い発案ができたとしても、目指すべきゴールに辿り着けず頓挫することになりかねません。
この記事では、コンセプト設計が必要な理由や作り方のコツなどを詳しく解説します。
コンセプト設計とは、ベースとする考え方・構想を作っていくことです。
まずは、コンセプトの意味と役割について解説します。
コンセプトの意味
コンセプトとは元々「概念」や「構想」「発想」という意味の単語です。しかし、ビジネスや作品制作の企画立案の際にはベースとする考え方・構想の意味合いで使われます。
例えば「不思議の国のアリスの世界観を再現したカフェ」というコンセプトで飲食店を開業したいと思った場合には、
- ● 内装をアンティーク調で統一する
- ● トランプ模様の装飾や食器を置く
- ● チェシャ猫・白うさぎといった人気キャラクターを模したランチを作る
- ● ホール担当者の制服を水色と白のエプロンドレスにする
などを取り入れて、コンセプトを表現します。
コンセプトは、全てがブレないような一貫した考え方とも言えるでしょう。
コンセプトの役割
コンセプトを設計すると「7W1H」を明確にすることができます。7W1Hとは、
- ● When「いつ」
- ● Where「どこで」
- ● What「何を」
- ● Why「なぜ」
- ● Who「誰に」
- ● Whom「誰の」
- ● Which「どちらの」
- ● How「どのように」
を表しています。
これらを明確にすることで、ターゲットの人物像やニーズを理解することにつながり、企画がビジネスとして成り立つかどうかの再確認ができます。
また、コンセプトは企画のブレを防ぐのにも役立ちます。企画を進める中で試行錯誤や議論を繰り返すうちに、当初の構想から外れてしまっては大変です。
コンセプトは一貫した考え方を保ったまま目的を達成するための指標の役割を果たしてくれるのです。
コンセプトにはいくつか種類がありますが、ビジネスで活用されるコンセプトは、以下の3種類があげられます。
- ● 商品コンセプト
- ● 事業コンセプト
- ● ブランドコンセプト
具体的にどのようなものか、それぞれ解説していきます。
商品コンセプト
商品コンセプトとは、「誰の」「どのようなニーズに」「どのようなベネフィットを与える」商品なのかを明確にしたコンセプトです。ベネフィットとは、商品から得ることのできる、満足感を伴う効果や体験のことです。
例えばハンバーガーチェーンのマクドナルドでは「安心でおいしいお食事を」を商品コンセプトに取り入れています。食の安全性にこだわりたい人に、「安全な牛肉のみを100%使ったパティを提供する」「ポテトに使用するジャガイモの種類は世界でも限られた品種のみ」などの、低価格でも高品質な食材のみを扱っていることをアピールしているのです。
商品の機能やデザインだけで競合に対抗するのではなく、「SDGsへの貢献」や「人生100年時代」への適応、「体験や共感」が実感できる情緒的・自己表現的なベネフィットを取り入れることも有効とされています。
事業コンセプト
事業コンセプトとは、プロジェクトの目標である「ビジョンの実現」や「戦略実行」を成し遂げるための方向性を示すコンセプトです。
まず、プロジェクトでやりたいことの包括的なイメージとして、事業コンセプトを策定します。
事業コンセプトでは、以下の3点を明確にすることが重要です。
- ● プロジェクトを行う目的
- ● 誰がどのような役割を果たすか
- ● どのような指標をクリアできればよいか(=目標)
最初にこのプロセスをしっかり踏むことで、プロジェクトの目的の実現や目標の達成につながる可能性が高まります。
ブランドコンセプト
ブランドコンセプトは、ブランドが果たすべき使命や約束を明確化するためのコンセプトであり、ブランド戦略の軸となるものです。
ブランディングに効果的なコンセプトは、漠然とした内容ではなく「ターゲット」「課題」「解決方法」を明確にした上で策定する必要があります。
ターゲットの感情を動かすブランド戦略ができれば、競合との差別化になるだけでなく、顧客のファン化に繋げることが可能です。
ビジネスにおいてコンセプトが重要視される理由として、主に下記の5つが挙げられます。
- ● 商品・サービス全体に影響があるから
- ● 商品・サービスの価値が決まってしまうから
- ● 競合と差別化できるから
- ● ビジネスの成功率を高めるため
- ● 従業員の仕事が明確になるから
順番に解説していきます。
商品・サービス全体に影響があるから
コンセプト設計が重要な理由は、商品やサービスの全体に影響を及ぼすからです。
コンセプト設定は、商品やサービスを作る時に、最初の企画立案の段階で行うものです。策定したコンセプトに沿って、機能やデザインなどを肉付けしていく流れになるため、コンセプトは全ての工程の土台であると言えるでしょう。
そのため、コンセプトが設計できていないと、商材そのものの在り方がぼやけたものになってしまうのです。
商品・サービスの価値が決まってしまうから
コンセプトを設計するか否かは、その商材の価値の有無につながります。
ターゲットはコンセプトが定まらない商品やサービスに価値を感じません。なぜなら、コンセプトはその商材の在り方を決定づけるものであり、ターゲットはその在り方を知ることで初めてその商品・サービスに価値を見出すからです。
たとえば、40代の既婚者の男性に対して、寝癖を真っ直ぐに伸ばすストレートアイロンを普通に勧めても、見向きもされないでしょう。しかし「性別年齢関係なく、家族全員で使えるストレートアイロン」というコンセプトで売られているとします。すると男性は「自分が使うためだけなら不要だけれど、妻や子どもと一緒に使えるものなら良い」といった価値を見出すことができます。
コンセプト設計は、商品・サービスに価値を与えるという重要な役割を持っているのです。
競合と差別化できるから
コンセプト設計は、ライバルとの差別化に有効です。
コンセプト設計によってメリットとベネフィットが明確になることで、ターゲットに向けた自社の商品・サービスのアピールポイントを発見できるからです。
競合の差別化に成功し、顧客の「ファン化」ができるようになると、将来的にブランディングにつながる効果も期待できます。
ビジネスの成功率を高めるため
コンセプト設計は、ビジネスが成功する確率を高めることにつながります。
コンセプト設計の際には、市場調査・競合調査など総合的な観点から自己分析を行います。自己分析によって自身の強みや差別化要素がわかることで、ビジネスを有利に進めることが可能です。
ターゲットに刺さるコンセプトを作り出せるかどうかが、ビジネスの結果に大きく影響すると言えるでしょう。
従業員の仕事が明確になるから
綿密にコンセプトを設計することで、その企画に関わる従業員・パートナーのやるべきことが明確になります。
コンセプトによって課題や方向性が示されることで、従業員が能動的に業務に取り組めるようになります。結果として企画全体のスムーズな進行につながるため、コンセプト設計が重要です。
コンセプト設計は、ビジネスの成功や商品の価値を高めるために重要です。
それでは、どのような手順でコンセプト設計をしていけばよいのでしょうか。
具体的には、以下の6つのタスクに分けてコンセプト作りのコツを紹介します。
1. 競合・市場調査をする
2. ターゲットを決める
3. ターゲットの課題・悩みを明確に汲み取る
4. 課題を解決できる方法を考える
5. 抽象的なキーワードに表す
6. 特徴やメリットを明確に打ち出す
順番に見ていきましょう。
競合・市場調査をする
まずは、競合や市場の調査を行います。
売り出したい商品やサービスの価格相場やトレンドを確認し、自社の商材を競合のものと比較しましょう。同時に、客観的な自社の評価も調査して、競合と差別化できるポイントを探ります。
調査を行うことで、顧客のニーズを可視化でき、自社の商品やサービスに魅力的な価値を付加した上で、市場にリリースできます。
ターゲットを決める
次にターゲットの選定に入ります。
ターゲットを決める場合には、年齢・性別・職業などの条件を細かく決めることが重要です。ターゲットがしっかり選定されていないと、商品やサービスに特徴が出にくく、結果どのような価値があるものなのかがぼやけてしまいます。
ターゲットの課題・悩みを明確に汲み取る
ターゲットを決めた後に、業界・競合のアンケート調査やネット上の口コミ調査などを行い、ターゲットが抱える課題や悩みを明確にしていきます。
ターゲットが普段感じている不満や不便を洗い出し、「本当はこうであってほしい」という希望を叶えられるような商品・サービスを提供する必要があるためです。
課題を解決できる方法を考える
ターゲットが抱える課題や悩みを洗い出した後は、その解決方法を検討していきます。
課題を解決する方法は、実現が可能なものである必要があります。
物理的な面や予算などの条件面を考慮して、実現が困難になる要素がないかを確認しながらコンセプト設計を進めるように心がけましょう。
抽象的なキーワードに表す
続いて、検討した解決方法やターゲットの理想像を、抽象的なキーワードで表現します。
例えば「ダイエッターも食べられる太らないラーメン」という商品コンセプトのインスタントラーメンがあるとしましょう。
このコンセプトは、
- ● 麺が100%こんにゃくで作られている
- ● チャーシューの代わりに大豆ミートを使用している
- ● 味が豊富で飽きずに続けられる
などの共通した要素を、抽象的に表したキーワードとして表しています。
このように、コンセプトを抽象的なキーワードで表現することで、商品やサービスの世界観が統一され、ターゲットに伝わりやすくなるのです。
特徴やメリットを明確に打ち出す
最後に、提供する商材のメリットと、「誰に」「どんな結果をもたらすのか」といったベネフィットを明確にしましょう。
たとえば、おいしいラーメン屋に行きたいと思った時。近所に複数のラーメン屋がある場合でも、それぞれのお店に特徴がなければ、どのお店を選べばいいか悩んでしまうでしょう。しかし「辛いのが好きな人を満足させる台湾ラーメン」という特徴を打ち出しているお店があったとします。そのフレーズは「辛いラーメンを食べたい」と思った人にメリットを感じさせ、数あるラーメン屋の中から選ばれることにつながるのです。
このように、特徴やメリットを明らかにすることで、ターゲットに響くコンセプトを設計することが可能になります。
コンセプト設計に必要な「アイデア」を生み出す6つの原則
コンセプトを生み出すのは「アイデア」です。
ターゲットに響くアイデアを生み出す考え方として、スタンフォード大学のチップ・ハース教授とダン・ハースらが提唱している、「アイデアの6原則」を紹介します。
原則1 | 単純性(Simple) | 相手に響きやすい |
原則2 | 意外性(Unexpected) | 相手の興味を惹きつける |
原則3 | 具体性(Concrete) | 相手に理解しやすい |
原則4 | 信頼性(Credible) | 相手に支持されやすい |
原則5 | 感情性(Emotional) | 相手の記憶に残りやすい |
原則6 | 物語性(Story) | 心に響かせる |
単純性:相手に響きやすい
1点目は単純性です。
アイデアは人の心を掴むために、単純明快でなければならないという考え方です。単純明快であるためには、アイデアの核となるものを見極めなければなりません。無駄なことをそぎ落して簡潔な1つの言葉にしてみることで、相手の心に響きやすくなります。
意外性:相手の興味を惹きつける
2点目は意外性です。
意外性を言い換えると常識を覆すということです。常識破りで相手を驚かすアイデアは、相手の興味を惹きつけ、強烈な印象を残すことができます。
具体性:相手に理解しやすい
3点目は具体性です。
アイデアの表現があいまいだと相手に伝わらないため、誰にでもわかるように具体的に示す必要があります。
具体性のあるアイデアは相手に伝わるだけでなく、相手が理解しやすくなります。
信頼性:相手に支持されやすい
4点目は信頼性です。
信頼性を高める方法は3つあります。
- ● 権威のある事実を持ち出す(例 : 専門家のお墨付きをもらう)
- ● 統計を示す(例 : 数値やデータを提示する)
- ● 鮮明な細部描写を盛り込む(例 : 自身で体験して詳細な感想を述べる)
アイデアを相手に支持してもらうためには、信頼できる説明や描写が不可欠なのです。
感情性:相手の記憶に残りやすい
5点目は感情性です。
アイデアのメリットやベネフィットを詳細に伝えることで、人の感情を揺さぶり共感を呼ぶことができます。
また、論理的に説明するよりも、感情に訴える方が相手の記憶に残ることもあります。
物語性:心に響かせる
6点目は物語性です。
アイデアが断片情報の集まりでなく、1つのストーリーとして成立していると、人の感情移入を誘発します。特に、挑戦や絆・創造性をテーマにしたストーリーは、人の心に響き、そのアイデアに対してインパクトを与えることに繋がります。
※「アイデアの6原則」は、要素の頭文字をとってSUCCESsとも呼ばれます。
コンセプト設計をしてから企画を進めた場合に、具体的に得られるメリットとしては、以下の3点が挙げられます。
無駄な投資を避けられる
具体的な投資判断の基準が事前に作られているため、必要のない部分に投資をして余計なコストがかかることを防げます。
ターゲットに合わせた商品開発ができる
ターゲットを明確にすることで、ターゲットに刺さる商品を開発することができ、競合との差別化や顧客のファン化に繋げることが可能です。
一貫性を持ったサービスにできる
コンセプトに沿って企画を進めることで方向性が明確になり、結果的にターゲットのニーズに応えられる一貫性のあるサービスを提供できます。
コンセプトは業種に関係なくメリットをもたらす考え方であり、その設計はどんな商品やサービスであっても、成功させるために実施すべきタスクといえるでしょう。
弊社「アイデアプラス」で実際にコンセプト設計を行い、成功した事例を紹介します。
有限会社⼟⽥昆衛製作所のケース
新規事業としてアウトドアブランドを立ち上げた、有限会社⼟⽥昆衛製作所様のブランディング構築を担当させていただきました。
まず市場や競合の調査を行った後「ターゲットの人物像」「ターゲットの抱える課題」「課題の解決方法」を明確にしていきました。競合との差別化と、顧客となるターゲットのファン化に繋げるためのブランディングに効果的なコンセプトを設計するためです。
コンセプトを決めてから、ブランド名とロゴデザインの設定、広告動画の作成、商品開発といった流れでブランドを形にしていきました。その際、「ターゲットの感情を動かす要素」をどう取り入れるかを意識しながら進めました。
事業の立ち上げという、何もないところからトータルで携わったこともあり、⼟⽥昆衛製作所様の持っていた世界観を崩さずに、ブランディング構築のお手伝いができたと自負しています。
株式会社まさめやのケース
エンターテイメントコンテンツに関連するプロダクト・サービスの事業を展開している、株式会社まさめや様の商品販売サイトのコンセプト設計を担当させていただきました。
まさめや様はこれまで運営していた自社のECサイトに加えて、ECモールへ自社ブランドのショップを出店したいとお考えでした。そのため、出店するサイトが競合に勝つためのコンセプトの設計を任されることになったのです。
まず、ターゲットは「誰」で「何」を伝えれば、相手の感情が動き、商品を購入してもらうという目的を達成できるのかを熟考しました。
ECモールの出店サイトで販売する商材は「アニメキャラクターとのコラボ香水」。まさめや様は、多彩な商品ラインナップのコラボ香水を提供しているという強みを活用し、競合との差別化をはかりました。
また、ペルソナを綿密に設定した上で作られた商材だったので、共感してくれるターゲットに届くように確固たる動線をサイト上に作っていきました。
こうしてコンセプト設計をしたうえで出店したECモールのサイトは、ターゲットのニーズを捉えて、売上を伸ばすことに成功しました。
コンセプト設計に関連した、よくある質問4点についてまとめました。
コンセプトを決める理由は?
コンセプトを決める理由は、主に下記の5つが挙げられます。
- ● 商品・サービス全体に影響があるから
- ● 商品・サービスの価値が決まってしまうから
- ● 競合と差別化できるから
- ● ビジネスの成功率を高めるため
- ● 従業員の仕事が明確になるから
コンセプトは商品やサービスを作る際に、最初の企画立案で設計されるものであり、すべての工程の土台になる考え方です。しっかりとコンセプトが設計された商材は、ターゲットに選ばれるための価値を与えられ、競合との差別化にも役立ちます。また、コンセプトを設計する際に市場調査・競合調査・自社分析を行うことで、ビジネスの成功率を高めることができます。綿密に設計されたコンセプトは、企画に関わる従業員・パートナーのやるべきことを明確にし、結果的に企画全体のスムーズな進行に寄与するでしょう。
キャッチコピーとコンセプトの違いは何?
コンセプトとは、商品やサービスを開発する上でベースとなる考え方・構想です。
それに対してキャッチコピーは、コンセプトを通じて開発した商品やサービスの価値をターゲットにわかりやすく言語化したもので、主に宣伝・広告に用いられます。
コンセプトは、キャッチコピーの上位概念といえるでしょう。
ビジョンとコンセプトの違いは何?
ビジョンとは、将来のあるべき姿を描いたもの・見通し・追求する理想・目指す方向性であり、単体だと具体像を持たないものです。
コンセプトは、ビジョンを実現する具体的構想で、企画全体のベースとなる考え方・構想のことを指します。
ビジョンとコンセプトは、表裏一体の関係にあるといえます
コンセプトとアイデアの違いは何?
コンセプトとアイデアの違いは、以下の3つが挙げられます。
- ● コンセプトの方がより抽象的な意味を持つ
- ● コンセプトは具体的に記述できるものだが、アイデアは正確に記述できない概念やぼんやりした発想を意味することが多い
- ● 「アイデア」という言語の持つ意味は非常に多く、「コンセプト」にはない意味も豊富に持っている
コンセプトとアイデアは似た意味を持つ単語ですが、上記の理由から同一の意味を持つ単語とは言えないという見解です。
コンセプトは、ビジネスを成功に導くための重要な概念です。
コンセプト設計を誤ると、どんなに商材が良くてもターゲットの心に届かず、手間暇かけたビジネスが中途半端に終わってしまうことにもなりかねません。
しかし、スムーズにコンセプト設計の手順を踏む技術を習得するには、経験と勉強が必要です。まだ作り方がよくわからないという方は、コンサルタントに依頼してみるのも一つの手です。
お困りの方はぜひ一度、株式会社アイデアプラスにご相談ください。
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木村 里紀
ディレクター
神奈川県出身。美術大学卒業後、映画/ドラマ/アニメのオフライン編集を行う映像編集会社に編集助手として従事。次回予告編集を始めとする映像作品作り携わる。その後、ディレクターとしてアイデアプラスに入社。ポスター、チラシ、LP、バナーなど複数展開のキャンペーン販促物を中心にディレクションを担当。